「お兄さんこそ、今度瀬戸さんに寂しい思いをさせたら俺がいるんでお忘れなく」


「いや、もう寂しい思いはさせねーし」


兄は痛いところを突かれて気まずそうだ。


「どうでしょうね」


嫌味っぽく言い返す西原くんは、どことなく晴れやかな顔だった。


「ねえ、あなたなんて名前だっけ」


「は?」


いきなり愛華さんに声をかけられて呆然とした。


あの、まだ私の名前も覚えていなかったの?


「千桜ですけど」


「そうね、チオだからチーなのよね」


「うん」


彼女は1人納得したようにうなずく。


「チオってさっきはちょっとだけカッコよかったかも」


「さっき?」


うう、それよりいきなり呼び捨てですか?


「うん、周りにどう見られても関係ないって言った時。
それと、お兄ちゃん以外には見向きもしませんって感じも。
まあそのわりには、他の男子も手玉に取ってるあたり、なかなかやるなって思って」