「部活の規則なんて真剣に守ってる人っているのかな」


「石野くんにしたら自分が歌ちゃんの負担になりたくないじゃないかな?ほんの少しでも迷惑をかけたくないって思っていそう」


「そうかな……わからないよ。
あいつが何を考えてるかなんて。
もしかしたら、単に私のことが嫌いになっただけで」


「そんなことないよ、きっと……」
 

不安そうにする彼女をできる限り励ましたかった。


だけど、私の言葉は傷ついた彼女の心には、あまり響いていないみたいだった。


遠くの席に座っている石野くんはさっきから机の上の課題プリントを穴のあくほど見ていて顔を上げようとしない。


だけど、多分いま歌ちゃんが自分のことを見つめているってわかっているんじゃないかな。


顔を上げてしまったらきっと彼女と目を合わせてしまうから。


だから、わざとああして彫刻みたいに動かないんだって思った。


彼の決心はもしかしたら想像以上に固いのかもしれない。


そう思ったら、これからどうしてあげるのが2人にとって一番いいのかわからなくなってしまいそうだった。