いたずらぽくそう言ってまた顔を近づけたら彼女は焦ったように瞳をさまよわせた。


「も、もうっ、本当に気をつけないといけないんだからね」


確かにまだ秘密の関係だけど、
俺たちは付き合いたてのカップルなので自然と甘い空気にしたい。


「チー」


「翔くん」


だけど唇が触れ合う寸前、突然異変を感じた。


ガチャ。


玄関ドアに鍵が差し込まれる音にビクッと肩を震わせた。


こういう時、わかっていてもすぐには動けない。


すると俺が呆然としている間に千桜は跳ねるようにサッと身体を離した。


表情もスッと真顔になっている。


そして身をひるがえして脱兎の如く階段を駆け上がっていってしまった。


時間にすると数秒。


はやっ。


あんなに早く走る千桜を見たのは初めてだぞ。


いつものんびりしているくせに、どこにそんなパワーを隠してるんだろう。


よっぽど、俺とののことが知られたくないんだろうな。


そう思っていたらドアが開いて両親が入ってきた。