え、そんなの嘘だ……。


自宅の玄関ドアを開けたら、母と矢代さんが話していて、その会話の内容に思わず耳を疑った。


「じゃあ翔は今日戻ってこれないんですか?」


母は戸惑いと不安の入り混じったような表情で聞き返していた。


「本当に申し訳ありません。愛華お嬢様がどうしてもと言って引き止めてしまって」


「でも泊まらせてもらうなんてご迷惑なんじゃ」


「いえそんなことはありません。
翔坊ちゃんは責任を持ってあづからせていただきますので。
明日の昼までには必ずこちらへ送り届けます」


うやうやしく頭を下げる矢代さん。


どうやら兄が伊集院家に今夜泊まる話がすすんでいて、矢代さんがその報告に来ている状況みたいでびっくりした。


今夜兄はうちに帰ってこないんだ。



向こうのお宅で晩御飯の食卓を囲んでお風呂に入って夜を過ごすんだ。


こんなことは初めて。