聞き覚えのある甘ったるい声がして同時に振り返った。


うっ、この声は……。


「お兄ちゃん、こんなところにいたの?」


案の定、愛華さんが廊下の向こう側から走ってきていたのでちょっとゲンナリした。


一目散に兄のもとへ駆けよっていきその腕にすがりついてしまった。


私のことなんて全く視界に入っていないようだ。


「探してたんだよ、教室へ行ってもいないんだもん。今日は愛華と一緒にお昼ご飯を食べる約束でしょ?」


えっ、なにそれ?


一緒にお昼ご飯ってそんな約束をいつのまにしてたんだろう。


私だってまだ学校で一緒に食べたことなんて一度もない。


「そうだったっけ。ごめん忘れてた」


兄は正直にそう言ってサラッと謝る。


「もうひどーい」


彼女の鼻にかかったような猫なで声にモヤモヤした。


「悪い、じゃあ今から行こう」


彼はあんまり気がないみたいだけど、強くは断らない。


そのことにちょっとびっくりした。