「あ、お兄様だ」


「えっ」


びっくりして思わず立ち上がって教室のドアの方を見た。


確かに兄の姿がそこにあったけど、目が合いそうになると思わずそらせてしまった。


なにもやましいことがあるわけじゃないのに、胸の奥がドクドク鳴ってしまう。


するとクラスメイトの女子達が黄色い声で騒ぎ始めた。


「きゃっ、生徒会長きた」


「瀬戸さんのお兄さんて凄くカッコイイね」


「いいなーあんな素敵なお兄さんがいて」


これまでだったら、こんな褒め言葉も嬉しかったけど今はちょっと複雑。


確かに、教室のドア付近に立ってこちらを見ている兄は異次元の住人かと思うくらい素敵でカッコいい。


「翔くん……」


おずおずと近寄って行くと彼は爽やかに笑っている。


「弁当、車の中に忘れてたぞ」


いけない、今朝逃げるように車から降りたから置きっぱなしにしてきたみたい。


「ごめん、ありがとう」


お弁当の入ったバッグを受け取るとお礼を言った。