「大好きだよ」


熱い吐息が耳元をかすめる。


「翔くん」


「チー、俺を拒まないで」


ああ、どうしたらいいのかな。


私には彼を完全に拒絶することなんてできない。


イケナイことだって、ちゃんとわかっているのに。
 

全身の力が抜けていくみたい。


彼の腕の中はあったかくて、やっぱりホッと安心できる。


気がついたら。


全てを委ねるように彼の胸に身体をあづけていた。


やっぱりそうだ。
彼は兄というよりも、初めて出会った男の人みたい。


だって、何を考えているのかさっぱりわからないんだもん。


そして、この日から私達の秘密が始まった。


きっと、もう引き返せない。


こんなに甘いことをされて、これからどうしたらいいんだろう。


このまま流されて行ってしまいそうでちょっと怖い。


溺れる自分がまぶたの奥にぼんやり見える。


生ぬるいプールの中でもがく私を兄はしっかりと抱きしめる。そして一緒に水底に沈んでいくんだ。


それはとても危険な思考で、それでいて甘美な誘惑に見えた。


怖いって思うのに、やっぱりずっとここにいたい。


お兄ちゃんの優しい腕の中にいたい。