軽い舌打ちと共に、強引な手が私の手首を掴む。


こんなときこそキスで何もかも忘れさせてほしいのに、今は掴まれた手首の痛みが棘のように刺さるだけ。



「……御影さんと、いたくない」

「は?」



自分は他の女の人といてもいいのに、どうして私は止められなきゃいけないの。


そう言いいかけたけど、嫉妬丸出しみたいに思えて口を(つぐ)んだ。



「……はあ」



沈黙のあとの、心底面倒くさそうな溜め息に鼓膜が震える。



「銀のとこはダメだ。行くなら最上階にしろ」

「……」



ここにいなくて済むのなら、どこだっていい。


だから私は、一度だけしっかりと頷いた。