「ま、待ってください。なんか怖い、もうやだ、帰りたい……」
「帰る場所、思い出せねぇんだろ」
「、…」
なにも言えなくなったことで、部屋の中に静けさが漂う。
そんな中、男は相変わらず肘を立ててそこに顔を乗せたまま、私に左手を伸ばして……
顔にかかる前髪を、そっとサイドへ流してくれた。
その手つきがあまりに優しくて、驚きと同時に否応なく胸が鳴る。
「目、やっと合ったな」
「、…」
ずっと邪魔だった髪の毛が目の前から消えて、
途端に鮮明になった視界に映ったのは、目を見張るほどキレイな男の姿だった。
視界を妨げる前髪とこの状況への恐怖心から、男の顔なんて今の今まで気にもしていなかったけど……
すぐ隣にいたのは、古びたこの部屋には到底似つかわしくない、
気品すら感じる、まるで生きた人形のように麗しい黒髪の男だ。


