眠れない総長は眠り姫を甘く惑わす





黒い影に全身が包まれる感覚がした。




……私は、なにを勘違いしていたんだろう。

彼女だって、ハッキリ言われたわけじゃないのに。



冷静に考えれば明白だ。

私は鬼炎魔の秘密を知っていて、だから御影さんは優しくしてくれただけ。



全ては敵組織である、鬼炎魔の秘密を知るため。


記憶を取り戻したとき、私からの好意があれば何もかもを聞き出せるから。


そのために匿って、懐くように優しくしてくれただけなのに……




「っ……」



音をたてないように後退った足は、元来た廊下を精一杯の速さで引き返す。


誰の呼びかけにも応えずホワイトターミナルを飛び出して、

いつの間にか降っていた土砂降りの雨の中、わき目も振らずただ走った。



……本当は、いたんだ。

私以外に、そういうことをする相手が。



もしかして、小町さんが本命?


そういうことをするだけの相手、じゃなくて。

想い合っているからこそ、そういうこともしたい相手?



どっちにしても、これで御影さんの計画は失敗だ。

だって私との間に溝ができたら、秘密を知ることはできないから。