眠れない総長は眠り姫を甘く惑わす




怖い。


頭の中が空っぽで、体の芯から得体の知れない恐怖が湧き上がってくる。



怖い、怖い、怖い。



自分がどこの誰かわからなくて、生きた心地がしない。

背筋が凍り付いたまま、まるで(おぞ)ましい夢を見ている感覚だ。



「記憶喪失?」

「た、ぶん……」



ひとつの布団で一緒に寝ているくらいだ。

この男はきっと私の彼氏とか、もしくは彼氏になり得た相手なんじゃないか。


そう思って聞いたのに。



「悪いけど、あんたのことは知らねぇな」

「え……」



知ら……ない……?



「、…」

「…………」



男は横たわったまま枕の横に肘を立て、そこに頭を置いた。

隣から、腕一本分の高さから、私のことを見下ろしてくる。