主にセバスティアンをいさめたレオンは、扉越しに優しい声を響かせた。

「キャロル、セバスティアンは君のことを心配しているんだよ。君がお供も連れずにお屋敷を出てしまったから、公爵家は大騒ぎになったんだ。エイルティーク王国は平和とはいえ、悪人はどこにでもいる。貴族令嬢がふらふら出歩いていたら誘拐されるかもしれない。彼らに迷惑をかけたことは反省しないといけないよ」
「はい……。ごめんなさい、セバスお兄様。わたくしが間違っておりました」

 たった一人の肉親に心配をかけた申し訳なさに、キャロルは縮こまった。
 山に山賊が出るように町にも盗人はいる。お財布の中身を気づかれずに奪いとるスリにあっていたら、たぶんキャロルは一文無しでさまようところだったし、キャロルが行方不明になったと知ってタリアやマルヴォ―リオも生きた心地がしなかっただろう。彼女たちのことも考えた脱走の仕方を考えるべきだった。
 セバスティアンは、ふん!という鼻息を荒くした。

「しばらくそこで反省するがいい。結婚式典を前向きに考え直すまで、おやつは抜きだからな!」