「ねえ、マルヴォーリオ。セバスお兄様はどうして結婚しないの?」

 もうすぐ八歳になるシザーリオ公爵令嬢キャロルは、紅茶をサーブしてくれた執事に問いかけた。
 キャロルの婚約者は、エイルティーク王国の王太子レオンだ。よくお茶をしたり、散策に出かけて楽しく過ごしているが、兄にはそういった相手がいない。

「結婚どころか、婚約者もいらっしゃらないでしょう? どうしてかしら?」

 長く公爵家に仕えてきて、セバスティアンの相談相手にもなっているマルヴォーリオは、心配そうなキャロルに微笑みかけた。

「旦那様は、ご自身の結婚については時期を見て、とお考えのようですよ」
「ということは、わたくしが知らないだけでお兄様にも良い仲のご令嬢はいるのかしら。ぜひご挨拶したいわ。王太子妃になるためのお勉強で、貴族女性と友好的な関係を築く重要さを学びましたの」
「それはよろしゅうございました。しかし、私が知るかぎりでは、そういった方は存じ上げません」
「いないのかしら……。レオン様ほどではないけれど、お兄様もけっこう美形なのに……」