でも、それは我がまま。そんな自分にはなりたくない。
 だからキャロルは、王太子妃候補だったプライドだけは失わないために、悠々と微笑むのだ。

「ご安心くださいませ。いくら自由とて、レオン様の元婚約者ですもの。情けない真似はいたしません。ひと思いに身を投げてみせましょう」
「……言い直してやる。令嬢がどうこうではなく、アンタは変人だよ」

 けたたましく汽笛が鳴った。
 架け橋はあげられ、白い帆がいっせいに広げられる。

「出港ですわね」

 港に残った労働者が手を振ってくれたので、キャロルは笑顔で振り返した。
 そろそろ船内に入ろうと手すりに背を向けると、陸の方が騒々しい。