「では、どちらに行かれたのでしょう。庭師の話では、大型犬に引っ張られて走っていったらしいのですが……」

 セバスティアンは、心配そうなタリアの背を支える。シザーリオ公爵家に仕える使用人を家族のように思っているのだ。

「そう気鬱になっては赤ん坊に影響が出る。キャロルのことは案ずるな。どうせ、レオンの代わりにパトリックを散歩に連れて行ったとか、そんなところだろう」
「……違う」

 今日は、金曜だ。愛犬家の集まりに行くのは水曜。それを知っているキャロルが、わざわざ門の外にパトリックを連れ出すはずがない。
 
「散歩なら城内でもできる。キャロルが出ていったのは、他の理由だ……」

 悩ましげに視線を下ろしたレオンは、ブーツの紐通しが輝いていることに気がついた。指でさぐると、水晶の欠片がはさまっている。