「ヴァイオラの置き土産が盗まれたのは、そのためか……」

 宝物庫にあった魔晶石はすべて盗まれていた。
 無事なのは、キャロルの手にある指輪だけだ。小ぶりな石だが、ヴァイオラの宝飾品のなかで、もっとも強い魔力を宿していて絶えず在りかを発信している。

 セバスティアンは濡れた手を拭きながら問いかけた。

「窃盗団は、エイルティーク王国の次にどこへ行くつもりだ?」
「イリリア国とか言ってたぜ。トービー港で貨物船に乗りこんでしまえば、直通で行けるからな。追うなら急ぎな。あいつら、道を通れなくしてその間に逃げるんだ」
「すぐに向かおう」

 牢屋から出て厩舎に向かっていると、黄昏の空のしたをタリアが息を切らして走ってきた。

「王太子殿下、セバスティアン様。キャロル様のお姿を見ませんでしたか?」
「俺たちは見ていません」