日の差さない廊下を一人で歩いていたレオンは、曲がり角で女性とぶつかった。

「失礼」
「あれ。王太子殿下じゃないか」

 相手は、七夜目のパーティーでキャロルに怯えられていた、占い師のニナだった。
 手に水晶玉を抱えていて、肩に提げた皮のバッグはこんもりと膨らんでいる。

「いま、王妃様の占いをしてきたところさ。十二夜は順調かい?」
「おかげさまで」
「そりゃよかった。婚約者との仲がまずくなりそうなら早めに相談しな。サービス料金で占ってやるよ」

 そう言って、ニナは離れていった。
 背を向けて歩き出したレオンの耳は、かすかな金属音を拾う。
 後ろを振り向いたが、もう彼女の姿はなかった。