たぐいまれな美しさを持って生まれたヴァイオラは、常に外見が衰える恐怖に怯えていて、魔晶石から得られる魔力で永遠の若さを保とうとした。
 少しでも多くの魔晶石を手に入れるために無謀な外交を繰り返し、国を傾け荒廃させたという伝説の悪女である。

 レオンがキャロルに渡した宝石も、ヴァイオラの品だ。

「ヴァイオラは国民に忌み嫌われている。それに、他の宝石と比べると魔晶石は輝きが劣る。盗むだけの価値はないと思うが……」
「いや、魔晶石は金になるぞ。産出国フィロソフィーでは、新たな聖王が魔晶石の採取と輸出の禁止を打ちだした。それを受けて、大陸での取引価格は、数年前の五倍にふくれあがっている。品物の多くは、すでに裏取引の市場に流れているらしい」

「下手に大粒の宝石を売ろうとして足がつくより、需要の高まっている魔晶石に狙いを絞った方が、確実に金に換えられるというわけか……。裏取引では、表立って買えない品物ほど、たやすく買い手が見つかると言うしね」