バサッと机に置かれたのは、10㎝はあろうかという分厚い調査書だった。

「宝物庫にある品と、保管リストを照らし合わせてきた」
「早いな。やはり調べ物は、セバスに任せるにかぎる」

 調査書をめくったレオンは、『異常なし』の判を指でなぞっていった。

「絵画、彫刻、稀覯本に被害はなし……。盗まれたのは、俺が見つけた宝飾室のものだけか?」
「ああ。王冠やティアラ、ネックレスなど、いかにも贅沢で高価な品には手つかずだった。盗まれたのは、魔晶石が使われている珍品ばかりだ」
「傾国の女王ヴァイオラの置き土産か」

 魔晶石は、魔力が宿っている稀少石で、大陸北方の小国でのみ産出されている。
 乳白色を帯びて、光を当てるとプリズムが輝く石に、異常なほど魅了されたのが九代目女王ヴァイオラだ。