「レオンさま、そんな風に甘やかしたら、修行になりませんわ」
「そう? こうして触れるのは、俺には苦行みたいな幸せ時間なんだけど、キャロルはまだそういう気持ちにはならないかな」
「苦しみと幸せを同時に……?」

 たぶんレオンは、渋ーく淹れた紅茶においしさを見いだせる老人みたいな状態になっている。
 そんな味わい方ができるほど、キャロルは大人ではない。

「申し訳ございません、レオンさま。わたくしには難解です。しかしながら、いずれわたくしもその境地に達するべく、日々修練してまいります」
「いったん武者修行から離れようか。キャロルはそのままでいいんだよ」
「はい。それでは、このままでおります」

 ニコニコするキャロルの顔を、マントルピース上の鏡越しに見たレオンは、ふうと息を吐く。

「かなわないな」