ただ前だけを見る。うっすら明るくなり始めた道に目を凝らす。
 手綱をふるって大通りを突っきり、小路に入ってからも脇目を振らず、先へ、先へと馬を操る。

 通りにひびく蹄の音。通りに渡された王太子の十二夜を祝うフラッグやブーケ。白んだ空。その何もかもが今のレオンには遠く感じられた。

 頭のなかには、愛しい婚約者しかいなかった。
 
 泉の湧く教会を過ぎると、前方に人影が見えた。
 黒霧の森の入り口に、うずくまる少女がいる。そのかたわらには、先に駆けていったパトリックが寄り添っていた。

「キャロル!」