かつて、噛み木に噛まれて生死の境をさまよった経験があるキャロルは、次に同じ毒を体に流し込まれることがあったらショック状態におちいって死ぬと、医者に忠告されていた。

 令嬢育ちのキャロルには、他に自分の命をうしなう方法が分からない。なので、噛み木に「噛んでください」とお願いしようと思っている。

「急がなければ……。ですが、足が、重たい……」

 歩き続けたキャロルは、限界を迎えていた。
 どうにも体が重い理由は、それだけではない。

 キャロルの心が、レオンのそばに、いたがっているからだ。
 彼から離れたくないと、悲鳴をあげているからだ。

 胸が苦しくなった。心臓のうえを手で押さえながら、キャロルは前に踏み出す。