「キャロルに八夜目の薔薇を届けてきたよ」

 シザーリオ公爵邸の一室に入ったレオンは、ガウンを羽織って椅子に掛けていたセバスティアンに話しかけた。
 廊下から行けばいいという彼を押し切って、かつてと同じように外の壁伝いに届けたので、心配して待っていてくれたのである。
 無茶なのは分かっていたが、ああしなければキャロルは薔薇を手に取ってくれないと思ったのだ。

 ランプを灯しただけのうす暗い部屋は、品の良い調度品でまとめられている。屋敷の主である彼の真面目さを映したようだと、来るたびに思う。

「妹が迷惑をかけてすまない」

 キャロルの暴走に現在進行形で巻き込まれている兄は、立ち上がって親友でもある王太子に頭を下げた。

「十二夜で多忙なうえ、例の窃盗団を追いかけるので騎士団も大変だというのに」
「いいんだ。キャロルが俺との結婚を嫌がって、逃げ回っているのではないと分かっているから」