十年前、キャロルは病床にいた。
 黄昏どきの空の色に染められた寝室に、苦しそうな咳がひびく。

「けほっ、けほっ……」

 ゼエゼエと肺を鳴らして、やっと息を吸う。
 こんなにも苦しい原因は噛み木の毒だ。
 メイドと黒霧の森にピクニックに出掛けて、噛まれてしまったのである。

 大人でも生死の境をさまよう毒におかされたキャロルは、もう三日も寝込んでいた。
 往診に訪れた公爵家お抱えの医師は、最悪の場合も覚悟しておくようにとセバスティアンに告げた。
 宣告を受けた兄が、扉の向こうで声を殺して泣いていたのを、キャロルは知っている。

(わたくし、死ぬのね)