「あ……」

 離れていく背中に手を伸ばすが、レオンは振り返ってくれなかった。
 暗い部屋に一人残されたキャロルは、行き場のない手を引っ込める。

「……わたくし、最低なことをしてしまいました……」

 今度こそ、レオンに嫌われてしまった。じわっと涙が出てきて、泣きそうだ。
 フラフラした足どりで廊下に出ると、歩いていた紳士にぶつかった。

「グズっ、申し訳、ございません、グズっ」
「キャロル」

 顔を上げると、相手は久しぶりに会う兄セバスティアンだった。
 不意打ちを食らった鳩みたいに、目を丸くしている。