クリスマスの日、仕事を終えた私は速攻で会社を出た。

 会社の近くにあるちょっとだけ高いスーパーでスモークサーモンだとかクラッカーだとか、クリスマスらしいものを買い込んで大慌てで家へと帰る。

 私の方が仕事が終わる時間が遅いから、彼は少しだけ遅れてくることになっていた。

 その間に私はちょっとした料理を作った。なにせ、一人暮らしの女の家のキッチンは狭い。廊下に二人立ったところで料理するスペースがないから、できるだけのことは終わらせておきたかった。

 本当は全部自分で作りたいけれど、冷蔵庫もそんなに大きくないし普段料理をしないからどうぜボロが出る。それなら潔く出来合いのものに任せようと思った。

 私が家に着いて一時間ほど経った頃、家のインターホンが鳴った。

 ドアホンのスピーカーからエントランスにいる彼の声がくぐもって聞こえる。私はすぐにロックを解除して、まだ彼が来てもいないのに玄関の前で待ち伏せした。

 数分してようやく、玄関のインターホンが鳴った。私はドアスコープを見ることもせず扉を開けた。

「こんばんは。入ってもいいかな」

 スーパーの袋を下げた彼はやんわりと微笑む。私はどうぞ、と言って中へ案内した。

 私の部屋は普通の1Kだから案内と言ってもたいして見せるものはない。キッチンが併設された廊下とバスルームを通り過ぎると七畳ほどの部屋があるだけだ。

 その部屋も決して広くない。私はただでさえデザイナーなんてものをしているから、部屋は本や画材だらけだ。整頓しているけど、ものが多くてごちゃごちゃしていると思う。

 彼は私の部屋に足を踏み入れると珍しそうにそのあたりに視線を巡らせた。

「ごめんね。一応掃除したんだけど」

「スケッチブックがたくさんある。画家さんの部屋みたいだ。ご飯食べたら見てもいい?」

「いいけど……学生の頃のデッサンとか、パースの練習とか、大したものは置いてないよ」

「いいよ。朝陽がどんなことしてるか知りたいから」
 
 春樹くんはスーパーの袋から買ってきたサラダやスパークリングワイン、そしてケーキを取り出した。彼もクリスマス用の料理を買って来てくれたようだ。料理は私と被っていない。というかお互いが相手の好きそうなものを買ってきているから被らなかったみたいだ。

 私はさっき用意したアラカルトを私の作図テーブル────もといダイニングテーブルに置いた。

 普段自炊しないからこんな光景は滅多と見られない。このテーブルの上にこんなに料理が並ぶのは社会人になってから初めてのことかもしれない。

「すごい。私の家でこんなご馳走が見れるなんて思わなかった」

「前も言ってたけど、自炊しないって、どれぐらいしないの」

「朝ごはんはパンを焼くぐらい。昼はほとんど外食だし、夜も食べて帰る方が多いの。さすがに女の子としてまずいよね」

「別にいいんじゃないかな。自炊が嫌いなわけじゃないんだよね」

「そうだけど……得意料理もないのはちょっと、嫌じゃない?」

「じゃあ、また作ったら味見役させて。その方がやる気でるだろうから」

「ひどいご飯でお腹壊しても知らないんだから」