実を言うと、彼の誕生日プレゼントは既に買っていた。

 買ったのは財布でも、腕時計でも服でもなく本だ。図書館で働いている人間に本を送るなんておかしいかもしれないけど、それしか思い付かなかったし、私が本を送りたかった。

 選んだのは日本の風景の写真集だ。一度図書館で借りて、とても気に入ったので彼にも見て欲しいと思った。

 図書館に行けば借りられるものだけど、私はその場所にあなたと行きたい、という思いを込めて贈り物にすることにした。いつか彼と行ってみたいのだ。そして彼が本を読む隣で、絵を描きたい。

 いつか小さい頃、私が外で絵を描いていた時。春樹くんがすぐ近くで本を読んでいたように。

「あ、じゃあお願いしてもいい?」

「なに?」

「絵のモデルになって欲しいんだ」

「……俺が?」

 まさかそんなことを頼まれるとは思わなかったのか、春樹くんは不思議そうな顔をした。

「そう。春樹くんは本を読んでいて。私はあなたを描くから」

「そんなことでいいの」

「うん。だってずっと思い出に残るじゃない」

 靴やバッグは満足感は得られるけど流行が終わってしまえばタンスの肥やしになるだけだ。高いものには興味がないし、彼からそんなものが欲しいとも思わない。

 それなら私達らしく、そういうものの送り合いをすればいいのではないだろうか。

「朝陽画伯に描いてもらえるなんて光栄だな」

「格好よく描けるかわからないけどね」

 私は高校の時も、ひっそりと彼を描いたことがあった。その絵はとっくに捨ててしまっているし、大してうまくもなかったけれど、私にとっては春樹くんを思い出す大切な一枚だった。

 今度はもっと、きっとうまく描けるだろう。きっと彼らしく仕上がるだろう。私はもう本当の彼を知っているのだから。