私と春樹くんが付き合うようになってひと月が過ぎた。

 私は相変わらず忙しいけれど、その分彼が融通を利かして会いに来てくれる。私達の関係は以前とは少しだけ変わっていた。

 彼は以前よりももっと、自分をさらけ出してくれるようになった。よく喋ってくれるようになった。

 けどその分、私が聞いていて恥ずかしくなるようなことも言うようになった。まるで本物の王子様みたいに、私を甘やかす。聞いていて耳が痒くなりそうなほど、今までの時間を埋めるように私への思いを口にした。

 私が「春樹くん、そんなこと言えるの若いうちだけだよ。私がおばあちゃんになっても同じこと言える?」とからかうと、彼は「言えるよ。朝陽はきっと素敵なおばあちゃんになるだろうから」と返す。私は呆れて返事もできなかった。

 彼はもっと物静かで、知的な人だと思っていたのに。これも私が知らなかっただけで、本当は軟派な人だったのだろうか。だとしてもドキドキしている私は文句なんて言えない。ただ彼の言葉を聞いてどうしようもなく顔が熱くなるだけだった。

 十二月も下旬に差し掛かり、街角はいよいよ本番のクリスマスに賑やかしさを増した。

 私は春樹くんの隣を歩きながら、ふっと吹いた北風にコートの裾を合わせて身を縮こませる。何気なく寒いねと呟くと、私の手を包む春樹くんの手がギュッと手に力を込めた。

 彼の何気ない態度にまだ慣れない。いい大人がこんなことで恥ずかしがっているなんて滑稽だ。

「朝陽、クリスマスプレゼントは何が欲しい?」

 突然そんなことを言われて、私はたまたま目に留まった店の展示から慌てて視線を外した。そんなに物欲しそうに見えただろうか。マネキンが着ている冬物のコートを見て、「あったかそうだな」と思っていただけだ。

「プレゼントなんて、いいよ。二人とも仕事だし」

 生憎なことに、今年のクリスマスは二人とも仕事だった。もちろん夜は二人で過ごす予定だが、この時期はどこも店が混んでいて外食が難しく、家でお祝いすることになりそうだ。

 二人で過ごせるから特別なプレゼントはいらない。それが私の本音だ。

「せっかく恋人になれたから、何かしたいんだ」

「また、そんなこと言って」

 私が少し早足で逃げると、彼も早足で追いかけてきた。私の無駄な抵抗はあんまり意味がなかった。

「じゃあ、春樹くんは何が欲しい?」

 振り返って尋ねると、彼は「朝陽」、とこともな気に言って見せた。

 私は呆気に取られて反応が返せなかったが、しばらくして「え!?」と声をあげた。

「か、からかわないで! 真剣に聞いてるのに!」

 そう言っても彼は真剣だよ、なんて言ってきそうだから、私はまた早足で言い逃げした。それも、あんまり意味はなかった。