その夜、俊介は綾芽に電話を入れた。

 なるべく毎日連絡するようにはしているが、電話となると綾芽が取れるか分からないし、疲れているだろうと思ってメッセージのやりとりばかりしていたが、今日はきちんと喋って伝えたかった。

 綾芽は五コールもしないうちに出た。家でゆっくりしていたのだろうか。時刻は十一時を過ぎたところだ。もしかしたら眠りかけていたかも知れない。

「お疲れ様。もう寝てたか?」

『いえ……明日の用意をしてました』

「そうか……手を止めて悪かった。その、綾芽さんは次、いつ頃休めそうか分かるか? なかなか仕事で忙しいから、少しでも会えたらと思ったんだが……」

『……ごめんなさい。ちょっとしばらく忙しくて時間が取れないんです』

「……そうか」

 以前と同じ返事だ。分かっていたが、俊介はショックだった。

 以前は忙しい中でも休みをとって会ってくれていたが、今はそれもできないほど忙しいのだろうか。それとも、恋人同士になったからそこまで会う必要がないと考えているのだろうか。

 釣った魚に餌をやらないという言葉があるが、綾芽もそのタイプなのだろうか。考え始めるとモヤモヤしてしまう。

『俊介さん?』

「え? ああ……仕方ないな。また時間ができたら教えてくれ」

『せっかく誘ってくれたのにごめんなさい。俊介さんもお仕事頑張ってくださいね』

 電話は五分も掛からなかった。通話終了のボタンを押して、俊介はガックリと項垂れた。

 一度考え始めると妙に不安になって仕方がない。綾芽とは紆余曲折を経てようやく恋人になれたが、そのせいか綾芽の気持ちが同じ場所に留まっているか気になった。

 こんなことばかり考えて女々しいと思うが、自分は元々尽くすタイプだ。色々綾芽にしてやりたいと思うが、残念なことに彼女は尽くされるのが苦手なタイプのようだ。それは父親のことが理由なのだろうが、綾芽はとにかく遠慮をするから、できることも限られている。

 本当ならデートにも連れて行きたいし、落ち着いた時間を過ごしたかった。

 綾芽はいったいどう考えているのだろうか。