とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-

 スタッフとの最後の打ち合わせを終え、俊介はチャペルに向かった。

 もうそろそろ参列者達が席につき始めている頃だろう。何度もリハーサルしたから今更不安はないが、藤宮家のパーティよりも緊張するかもしれない。

 やがて廊下の向こうから綾芽が介添人を連れてやって来た。

 綾芽は両親がいない。招けるような親族もいない。そのため、俊介と一緒にバージンロードを歩くことにしたのだ。

 綾芽は俊介の前に来ると、嬉しそうに笑った。そして俊介はようやく、先ほど綾芽が言っていた意味に気がついた。

 綾芽が持っていたブーケにはアヤメの花が入っていた。だが、前に見た花束よりも少し感じが違って見える。

「今の時期アヤメの花はないので、これだけ造花になっちゃったんです」

「自分で作ったのか?」

「はい。どうしてもこのお花を入れたくて」

 来た時に持っていた大きな荷物はこれだったらしい。

 扉の内側から牧師が喋っている声が聞こえる。やがて少しして、新郎新婦────俊介と綾芽の入場を知らせる声が聞こえた。

「綾芽」

「はい」

「やっと家族になれるな」

 脇にいたスタッフが扉を開ける。俊介は息を吸い込んで、足を踏み出した。

 綾芽の腕を握る手がきゅっと俊介に絡んだ。隣で小さく、「はい」と涙声が聞こえた。