とある企業の恋愛事情 -ある社長令嬢と家庭教師の場合-

「お前らは二人も揃って仕事をサボるな」

 昼前にようやく出社した聖と本堂を、仁王立ちした俊介が出迎えた。

 相当待っていたのだろう、苛立った表情からそれが伺えた。

「ちょっとのんびりしてたら……」

「ちょっとじゃないだろ、かなりだ。午前中会議があったの知ってるよな?」

「えーと、知らなかった」

「嘘つけ!」

「青葉、ちょっとくらい許してやれ」

「何俺は関係ねえみたいに装ってんだ本堂! お前もだぞ! ていうかお前常務なんだからしっかり聖を見とけ!」

「ちゃんと見てるだろ」

 本堂は聖の方を見てニヤッと笑った。聖が赤面したのを見て、俊介はもういいというように顔を横に振った。

「……ゴホン。と、とにかく二人とも部屋に戻って。私も仕事始めるから」

 本堂を睨みつける俊介と我関せずな本堂が奥の部屋に消えて、聖は安堵の溜息をついた。

 懐かしい光景だ。五年前もこうして、二人がいがみ合っているのを眺めていたが、今はあの時とは少し違う。

 気持ちが軽くなったせいだろううか。椅子の座り心地すら違うように思えた。

 五年の間、聖は自分にできることをやろうと思った。

 諦めていた藤宮グループの経営体制も、本堂の後押しがあったからこそ改革できた。

 本堂のことが引き金になって正義の経営に対する考えや代表取締役としての自覚がなくなったのは、好機としか言いようがなかった。

 それに不満を持つ人間がいることをいち早く調べ、まるで比較させるように正義の尻拭いをした。

 もともとワンマンな正義が反感を買いやすいことは分かっていたし、社員にとって彼は目の上のたんこぶでしかなかった。

 取締役になることには時に興味はない。自分よりも優秀な社員がいれば、そのものに任せてもいいと思っていた。

 次の代表取締役に選ばれたのは、五年間の努力の賜物だろう。ありがたかったことにほとんどの株主が、自分を次期社長にと選んでくれた。

 自分で掴み取った地位だと思えば、愛着が湧いた。気さくに話しかけてくれる社員がいれば、笑顔が溢れた。

 五年前はなかった変化だ。