本堂は久しぶりに訪れた会社のエントランスを颯爽と歩いた。

 見慣れた受付嬢達の前を過ぎてエレベーターのボタンを押す。何度も乗ったエレベーターは自分がいない間に新しくなったのか、真新しい匂いがした。

 チンと音を立ててドアが開き、急ぎ足で執務室のドアを開けた。

「聖……っ!」

 意気込んできたのに、部屋の中に目的の人物はいなかった。

 とっくに出勤時間は過ぎているし、いつもの彼女なら来ているはずだ。それともスケジュールが忙しくて、また外出しているのだろうか。

 どうしたものかと考えていると、不意に秘書室の扉が開いて、驚いた顔の青葉が中から出て来た。

「本堂……っ!?」

 青葉はひどく驚いた様子で本堂に駆け寄った。目を何度も瞬かせながら、目の前の人物が本物かどうか確かめているようだった。

「青葉、聖はどこだ」

「お、お前帰って来ていの一番がそれか……もっと言うことがあるだろう」

「悪かった」

「え?」

「俺の勘違いだったんだ。全部……聖のそばにいたい。だから戻って来たんだ。今更遅いかもしんねえけどな……」

「そんなことはない! 聖は……ずっとお前を待ってたんだ。だが────」

 青葉は言葉を濁した。ひどく辛そうな表情をして、その先を言うのを躊躇っていた。

「青葉、聖は?」

 しびれを切らしもう一度尋ねる。青葉は目を逸らしたまま、ボソボソと呟いた。

「……ここにはいないんだ」

「じゃあ、どこにいるんだよ」

 青葉は再び黙った。まるでそこに何か嫌な事実があるかのようで、本堂は妙な焦燥感に襲われた。

「なんだよ。なにかあるのか!?」

「────付いてこい」

 青葉は神妙な面持ちで執務室を出た。本堂はその表情の意味が分からず、ただ漠然と、不安を感じた。

 何かあった。そのことだけは分かった。