本堂はふと時計を見た。時間を忘れるほど資料に集中していたのか、気が付けばもう十二時を過ぎていることに気が付いた。

「飯、食わねぇとな」

「ねぇ、お昼は外に食べに行かない?」

「ん? まぁ、いいが……」

「よし、じゃあ行きましょ! 早くしないと俊介にバレちゃう!」

 聖はバタバタと財布を用意をし始めた。

 普段聖と食事することはほとんどないが、空腹だったし一人で食べようが二人で食べようが同じだと思っていたので聖に付いて行くことにした。

 聖は本社ビルから外に出たものの、どこに行こうか迷っている様子だった。今まで車でしか移動したことがないのだ。外食も恐らく一人でしたことがないのだろう。

 今まで昼飯はどうしていたんだ、と尋ねると「俊介が用意していた」と答えた。道理で何も知らないわけだ。

 困っていた聖に、本堂は仕方なく助け舟を出した。

「何が食いたいんだ」

「えっと……どんなお店があるの?」

「別にこの辺ならなんでもある」

 オフィスビルが立ち並ぶ通りにはコンビニも点在していたし、サラリーマンやOL向けの定食屋やおしゃれなカフェだって探さなくてもいくらでもあった。それらは恐らく聖の入ったことがない店ばかりだ。

 勝手な想像だが、普段はきっとミシュランに載るような三つ星クラスのレストランでしか食事したことがなくて、家でもきっと一流のコックを雇っているのだろう。青葉が用意しているのも恐らくその類のものだ。

 聖がどんな店を選ぶのか、少々興味があった。

「じゃあ、えっと、その……コンビニ行ってもいい?」

「……コンビニに行くぐらいで行ってもいいって聞くんならお前が普段行く店は役所に申請しねえと行けねぇんだろうな」

「え、駄目なの?」

「そんなこと言ってねえだろ。さっさと買って適当にその辺で食うか」

 本堂は丁度近くにあったコンビニに入ることにした。

 さっさと食べようと思いワンコインの弁当とお茶を選んだが、聖は珍しいのか、キョロキョロしながら店内を見ている。

 その様子がまるで田舎から上京してきたばかりのお上りさんのようで、思わず笑ってしまった。本当に、こんなところに一度も来たことがないのだとよく分かる。

「ほら、お前の好きな煎餅も置いてるぞ」

 本堂が商品が置かれた棚を指差すと、聖は驚いていた。

 その煎餅はコンビニでよく売っている百円程度の商品だ。珍しいものではない。

 普通は仕事の合間や小腹が空いた時の食べるのだろうが、聖が小腹が空いた時に青葉が出すのは一流菓子店の菓子だ。それは間違っても百円なんかでは買えない。

「うわ、本当。買ってもいい?」

「お前の金で買うんだから好きにしろ! おのぼりさんかよ」

「……ごめんなさい。珍しくてつい……」

 興奮してしまったことを反省しているのか、聖はションボリと項垂れた。それを見ているとなんだか自分の方が悪いことをしたような気分になる。

「好きなだけ見とけ。どうせ何度も来れねぇんだ」

「ありがとう……ごめんね、すぐ選ぶから」

 そう言ったものの、聖はやっぱり見るもの全てが気になって、なかなかその場を離れられないようだ。

 本堂は腹が減っていたが、目をキラキラさせながら辺りを見る聖を見て、仕方なく側で見ていることにした。