入社してらからというもの、俊介は毎日が光のように過ぎ去っていくほど忙しくなった。

 執事としての仕事にプラスして聖の会社での仕事をサポートするわけだから、いくら俊介がその実力を買われて秘書になったのだとしても大変なことに変わりない。

 だがそんなことよりも気になることがあった。本堂のことだ。

 あれから自分の目の前では特に変わった行動は見せていない。不真面目なのは相変わらずで、補佐のくせに聖には非協力的だ。

 こんな社員でも本社ではトップの営業成績を誇っていたというから驚きだ。

 同じ部屋で仕事しているが、仕事中は基本的にパソコンに向き合っている。時折聖に呼ばれて執務室へ行くが、変わったことはなさそうだった。

 俊介は資料をまとめて、聖のいる執務室の扉を叩いた。中から声がして、扉を開ける。聖はデスクについて書類を見ていたようだ。

「聖、定例会議の議題一覧だ。会議の前に目を通しておいてくれ」

 資料の束を手渡すと、聖はパラパラとめくって中を確認する。

 聖の机の上には既にいくつかの紙の束が置かれていた。恐らく本堂が渡した書類だろう。

「あれ? 決算書は?」

「あ……そうだったな。悪い、すぐに用意する」

「まだ時間があるから急がなくても大丈夫よ。用意できたらそこに置いておいてね」

「ああ」

 聖は賢い。入社したばかりの頃は会社の全体像を把握するので忙しかったが、それも終わって既に正義の代わりを務めるべく仕事の引き継ぎも行なっている。

 正義はそう遠くない未来に聖にその座を譲るつもりなのだろう。

 だが、聖はまだ二十代だ。代わりを務めるには早すぎる。それにそうすれば、彼女が望む自由はもっとなくなるだろう────。