「は、なんで」
「僕と結婚すれば、僕が雅ちゃんにこの会社を継がせるっていう決断ができるから」
「でも」
「ね、お願い。雅ちゃんの夢がこれで叶うんだよ」
「でも蒼、蒼は」

 雅ちゃんは僕とは目を合わせずに、気まずい会話から避けるように目線を彷徨わせていた。

「蒼は、私と結婚するのが、自分のやりたいことなの?」
「うん。僕は雅ちゃんが大好きだから。雅ちゃんのためになりたい。雅ちゃんを助けたい」
「その好きは、恋愛の好き?」
「うん。恋愛の好き」

 目線は、まだ合わない。いくら告白したところで何も進まないし始まらない。何も進まないまま、雅ちゃんは無言で立った。

「考えさせて」
「うん。いいよ」
「蒼、でも私は」
「友達でいられる。何があっても僕らなら。ね?」

 強ばった手を取る。僕の手よりも小さくて、柔らかくて。なのに至る所に傷がついている手は雅ちゃんの努力の証のようで。

 傷つけないように、驚かせないようにそっと、ゆっくり手を繋ぐ。小さい頃によくやったように。

 雅ちゃんが頷いたのを見て、やっと僕は雅ちゃんのそばを離れて、家に帰った。