「キーッ!」
"野球部"と書いてある部室の扉を開く。
窓から朝日が差し込み、眩しさで目を細めながらも、しかめっ面で部室の中を覗く。
開かれた雑誌、脱ぎ捨てられた服、バットやグローブが乱雑に散らかったいつもの部屋。
その中央、背もたれもない物が積まれた、机と化している長椅子の横に埋もれるように座っていた梨緒の姿は今はない。
「あ!おはよう!早いね。一番乗りだよ。」
そう今にも聞こえてきそうな。そんななんの変哲もない日常。
屈託のない笑顔の梨緒を思い出して、ついフッ!とうつむきながらも笑顔が溢れる亮輔。
その背後からポン!と、誰かに肩を軽く叩かれる。
力なく首だけ振り返る。
そこには同じく微笑の祐介の姿。
2人とも笑顔がどこか悲しげだ。



制服姿でいつもの通いなれた川沿いの堤防を
亮輔と祐介は2人で歩く。
「、、、。」
「、、、。」
お互い少しの間、沈黙が続く。
気まずいとかじゃない。
相手への憎悪でもない。
何かお互い想いにふけりながら帰路につく。
「、、、祐介。今まで悪かったな、、、。」
その静寂を始めに崩したのは亮輔だった。
「ああ、、、わしもすまなんだ、、、。」
祐介も力なく答える。
「、、、俺な、、、夢を見たんだ、、、。なんか梨緒に怒られた気がしたよ、、、。」
亮輔が反省したようにうつむきながら言う。
「、、、、、、、わしもじゃ。」
お互い違和感もなく、どこか分かっていたかのように受け答える。
「、、、。」
「、、、。」
またお互い黙り込む。
その口はグッと何かを我慢するようにへの字に曲がる。
その思いを振り払うように、また亮輔から言葉を発した。
「俺な、、、梨緒の事が好きだ!!」
それに負けじと祐介。
「、、、わしもじゃ!!、、、負けへんぞ!!」 
勝ち気な笑顔で亮輔に応戦した。
「よし!じゃあ祐介!連想ゲームだ!《梨緒→〇〇》」
思えば幼い頃からずっと3人でいた。
その思い出には常に3人の姿があった。



亮輔は思い出す。
それはあの時。小学4年生の亮輔と祐介が初めてバトミントンをした日。
亮輔は祐介に屈辱的大敗をした。
憐れむような目線の祐介に敗北を噛み締めていると、
「私も混ぜて〜〜♪」
梨緒がパタパタと手を羽ばたかせながらやってきた。
『替わって』というかのように亮輔のラケットを預かり、
「さぁ、来い!」
と、張り切って真っ直ぐ伸ばした右腕で
クルクル空中に円を描くように回しながら言った。
もちろん、亮輔が負けた相手。
不器用な祐介には手加減という言葉は無い為、
当然勝てるはずもない。
全く歯が立たず圧倒されているのにも関わらず
「く〜〜!」
悔しがりながらも
「まだまだ〜〜!」
楽しそうに梨緒は無邪気な笑顔で何度も挑む。

それから亮輔にも戦いを挑み、
やられながらも、笑顔で楽しそうに。
「そんな梨緒の行動が負けた敗北感から立ち直らせてくれた。」
その場を明るくする空気。それが力になった。


亮輔は答える。
「《梨緒→無邪気》。俺は梨緒に元気を貰った。」
うんうん。と、「納得!」というように笑顔で頷く祐介。
祐介も負けじと続ける。
「なら次はわしの番じゃな。《梨緒→〇〇》」