すると三好くんは、ぐったりと疲労したのを隠しもせずに肩を落として、深々と色っぽいため息を吐いた。
もちろん、わたしはこっそりとそれを吸い込む。
三好稀が逃がした幸せ、遠慮なくいただきます。
「それのどこが健全なの」
「ていうか、あの、もういいですか?わたしの人生設計的には、三好くんとこんなにお近づきになる予定じゃないんです」
「こそこそと俺のストーカーするのが、オマエの設計した人生ってわけ?」
「はいはい、すみませんでした。もうストーカーはやめますってば。それでいいですか?」
「どうしてそっちが、やれやれなのよ」
もう、うるさいなあ。これ以上、わたしの生き甲斐の三好さまを汚さないでくれ。
反抗するように、わたしの動きを封じ込めている腕をくぐり抜けようとした。
そう。
わたしはただ、壁と三好くんの腕の隙間から、抜け出そうとしただけなのだ。
その悲劇は、瞬間的なものだった。
夏休みと、三好くんの匂いと、三好くんの声と、ていうか至近距離の三好稀のすべてに浮かれきったわたしが。
「っきゃ、」
「っあぶな、」
うっかり、足を滑らせてしまったのだ。
しかも、最悪なことに、ここは階段。
世界がスローモーションになって、わたしは宙を舞った。
階段から、落ちていく。
すると、脳が理解するよりもはやく、やさしい温度と最高な匂いがわたしを包んだ。
ふたり、いっしょに下っていく。
ごろごろごろごろごろごろごろ。
衝撃からわたしを守るように、きつく抱きしめている三好くんの顔が間近にあって。
ああ、わたし、しぬのかも。
三好くんの腕の中で短い人生をおえるなら、本望—————



