「いまさら考えても仕方ないですよ」



みゃーこが部屋に訪れなくなって、4日が経つ。

相当なダメージをうけた俺は、いまだに回復することもなく、ソファの上で膝を抱えていた。


このソファ、ふたりで座ったなあ。キスもしたし。ああ、思い出すだけで泣けてくる。

4って、縁起が良くない数字だし。



「峰ぇえ、、、俺、もうだめだ、、しぬ、、」

「かわいそうに、失恋なさって」

「、、ウッ」

「ぜんぶ自業自得ですよ、嘘をついたのも勝手にばらしたのも、稀さまご本人です」



一部始終をしっかり目撃していた親友の執事は、容赦なく現実を突きつけてきた。しんどい。


言わなければよかった、と後悔もする。一生腕を怪我したふりしておけば、一生みゃーこを繋ぎ止めておけた気もする。


俺のことをまっすぐに見つめる、まるい瞳が欲しかった。もっと近くで映りたかった。

だけど、そこに映ったじぶんは、嘘つきで、かっこわるくて、ぜんぜん思うようにいかないのだ。



食欲がわかなくて夏バテ気味の俺に、峰がつくったフルーツジュース。色鮮やかな液体は、舌にのせたら甘い味がするはずなのに、なんだかすごく苦く感じた。

「峰ぇ、なんか、時間戻せる方法さがしてきて」

「何を言ってるんですか」

「ご主人様の命令だぞ、タイムマシンくらい持ってこいよ」

「ほんとうに、なにを言ってるんですか?」



心底呆れたようにため息をこぼされたので、俺は抱えていた膝をさらにぎゅっと胸もとに抱き寄せた。



タイムマシンがあったら、いつに戻ろうか。


あんな無意味に、嘘をばらす前?せめて、ばれるまで待っていればよかった?

あるいは夏休み前日の、嘘をつく前?くだらない嘘をついたりしないですんだ?

それとも、みゃーこに出会う前?そうしたら、俺は、もっと、きっと、ずっと。



「わかった、とりあえずみゃーこの記憶飛ばしてきて」

「どうやって?」

「ぶん殴ってもゆるす」

「ゆるさないでください、いけません」



あの瞬間まで、少なくとも、みゃーこは俺を好きでいてくれた。それどころか、とくべつに思ってくれていた自覚もある。

それを崩したのは、紛れもなく俺自身だ。


ああああ、ほんと、さいあくすぎる。底がなく、どこまででも深く落ち込んでしまう。



夏休みが終われば、また同じ学校に通うわけだし、二度と会えないわけじゃない。


ていうか、今日も変わらず学校のヒマワリにお水をあげているのだろうから、会おうとすればいつだって会える。


でも、そのときに、みゃーこの瞳を見るのがこわい。

すっかり冷めていたら、どうしよう。いや、きっと、そう。俺なんて〝うそつき弱虫男〟を見るときの視線を向けられるのがお似合いだ。


どうしよう、本気でへこんできた。



「たまには、ご友人と遊んでくるのはいかがですか」

「んー」

「誘われているんでしょう?」



そろそろ、俺のことをうっとうしく思ってきたらしい峰が提案する。

怪我したふりをしていたので、ずっと断っていた友だちからの遊びの誘いだけど、たしかに、そろそろ出かけたほうがいいかもしれない。



窓の外は、よく晴れている。外出日和だ。


ふらっと、何事もなかったかのように、みゃーこが玄関から元気よく入ってくるのを期待して。

いつまでもこの部屋で待ってしまうわけなのだけど、精神衛生上よろしくないのはとっくに承知のうえである。



〝稀、カラオケきてくれない?みんな、稀がいないとつまんねーって言ってる〟



タイミングよく、スマホに新しい通知が届いた。

俺がカラオケを盛り上げるとは思えないけど、せっかくなので行こうかな、という前向きなきもちになってみる。



どうせ、ここで待っていても。

もう、みゃーこは来ないのだ。