なかったことに、した。
そうしたら、すごく楽になった。
でも、そこで、三好くんの気持ちなんて考えたこともなかった。
何も答えないわたしに、峰くんは困ったように存在感を消そうとする。
執事特有の才能なのか、学校での彼を知っているとありえないくらい、峰くんは空気になるのがじょうずだ。
そんな、現実逃避をして、三好くんの責めるような視線から逃げようとする。
でも、けっきょく、逃げられずに囚われる。
「峰のことが、すきなの?」
いきなり自分の名前が出されて、ぱちりと瞬きをして驚く峰くん。それでも彼は幼馴染のことをよくわかっているので、とくに話に割り込んでくることはなかった。
つまり、助けてはくれなそうだ。わたしがじぶんで否定しないといけないらしい。
なにをいってるの。そんなわけないでしょ。峰くんとはなんともないよ。
そんな言葉を吐くつもりで、口を開いたのに。
「好きだとしたら、なんですか?三好くんに関係ないです」
じぶんの声で、鋭い凶器を放ってしまった。
関係ない、なんて。言う必要もないことだ。
三好くんは、しっかりと傷ついたように目を見開いて、頼りなさそうに瞳を揺らす。



