三好くんの仰せのままに


やっぱり、怒っていたらしい。こくんと頷いて肯定すると、三好くんの左手が、わたしのあたまをゆるく撫でた。

その、甘やかすような行為の意味を探しているから、なむなむと拝むことも忘れてしまう。


ひとつ、ふたつ、みっつ。


大切なこと、そうでもないこと、こぼすように忘れていってしまうみたいだ。



「ご、めんなさい」

「みゃーこ、何にあやまってるの。峰の仕事を邪魔したから?それとも、」



変わっていくのは、三好くんだけじゃない。

三好くんを遠くに見つけただけではしゃいでいた、あの頃のわたしはここにいないのだ。

忘れていくことは、こぼしていること?あるいは、ほかのことを覚えたせいで、あふれているの?



それとも、の続きがしりたくて、促すように、形の良いくちびるの動きを見つめる。

触れたことがあるから、あまくてやわらかい感触まで想像できてしまうけど、これは邪念。



「俺の専属メイドなら、ご主人様のこと、もっと、わかろうとしてよ」



さっきまではひんやりと薄い笑みを浮かべていたくちびるをぎゅっと結んで、わたしを弱々しく睨みつけた。ぜんぜん、こわくない。


年相応、なんなら幼い子どもみたいに拗ねてしまった表情に、ゆっくりと緊張が解けていく。



わかってほしい、でも、しられたくない。
きづいてほしい、でも、いわれたくない。


青春とジレンマは仲がよい。