主人の帰りを待つための支度は、整っている。
わたしたちは、少なくとも峰くんは、決して仕事を怠けていたわけではない。
だから、何も、やましいことなんてないはずなのに。
「ひとの部屋で、隠れて抱き合うのやめてくれない?気分わるいよ」
氷みたいに鋭い冷たさをもった声が空気を震わせたので、わたしと峰くんは同時にごくりと息をのんだ。
ていねいな両手がわたしを離して、峰くんはしなやかな仕草で三好くんのほうに身体を向ける。
「峰、部屋から出ていって」
「かしこまりました」
そして、そのままこちらに背を向けて、開いたままのドアに向かって歩き出すので───いや、まって?!置いていかないでよ?!
絶対零度の三好くんとのふたりっきりになるのが耐えられなくて、峰くんのあとに続こうとすると。
「みゃーこ」
「は、はい」
「まて」
猫みたいに呼ばれて、犬みたいな命令をされた。
その抑揚のない声には感情が乗っていなくて、つよい魔力が宿っているみたいに、わたしは動けなくなってしまう。
よく飼い慣らされた、犬みたいだ。
三好くんの飼い犬になるのはまったく文句なし、喜んで吠えます!という心構えなのだけど、段ボールに入れて捨てられちゃうなら話はちがう。
そんな、気まぐれで飼われたら困る。



