完全に、気を抜いていた。
この部屋には、誘惑がありすぎる。
あのとき、大画面が映し出されていた広い壁。ふたりで座れるソファ。そこで合わせた、あまいくちびる。
きらきらのフィルターがかけられた記憶は、ときめきの成分が多く含まれている。
したがって、何度も繰り返し、擦り切れるくらい再生したあのキスの記憶を、また、なぞって。
「っきゃ、」
カーペットがつるんとずれて、わたしはバランスを崩して倒れかけた。
すると、救い上げるための腕が完ぺきなタイミングで伸びてきて。
「おっと、」
「っ、!」
「セーフ、だね?」
いつかの最高な悲劇の再放送みたいだけど、わたしを包みこむ匂いがちがう。
三好くんじゃない。
転びそうになったわたしをぎりぎりで抱きとめてくれたのは、峰くんだった。
「あり、がとう」
「きょうの園田、いつも以上に地に足がついてないから気をつけなよ」
「すみません」
「無事ならよろしい」
なんてことない、よくある会話だ。だけど、体勢がわるかった。
かちゃり、自動のドアが開く音がして、静かな足音とともに人の気配がした。
この部屋にノックもせず入ってくるのは、彼ひとりだ。
「ずいぶん、ふたりで楽しそうだね」



