三好くんの仰せのままに




「遅かったけど、雨だいじょうぶだった?」



三好邸では、峰くんが心配そうにわたしを出迎えてくれた。昨日から、こういうことが続いている。



「雨は、だいじょうぶ」

「雨〝は〟?」

「ところで、ご主人様は?」

「もうすぐ帰ってくるよ」



きょうもきょうとて、クラスの人気者にふさわしい爽やかさと、三好邸の執事にふさわしい上品さを携えた峰くん。

短い髪もしっかり整えられていて、雨も湿気も関係ないらしい。まあ、太陽みたいなひとだしね。



「三好くん、ふつうだった?」


まわりに人がいないので、こっそり訊ねてみる。

首を傾げて「ふつう?」と繰り返す峰くんに、詳しくして質問を重ねた。


「おかしいところなかった?ほら、わたしみたいに」


けっこう真剣な問いだったのに、峰くんは、ふ、と鼻で笑ってひらりと交わした。答えてくれないらしい。




それからも、雨と、三好くんのせいで、なんだか散々だった。ずっと、堂々巡りの迷路から抜け出せずにいる。



着替えてきたけど、うっかりエプロンのリボンを結び忘れて、峰くんに指摘されたし。

お昼ごはんに出てきたサンドイッチでは、中身のレタスやトマトやハムなどが、ぽろんってぜんぶ溢れてしまったし。

後片付けのお手伝いをしていたら、お皿を落として割っちゃうし。



まだ帰ってこない三好くんのことが気になって、つねにこころが三好くんに向かってしまって、どうしようもない。そわそわするし、むずむずする。


これまでのわたしは三好くんの姿を見ると、ハートがふわあ〜と暖かくなって、お花が咲いたような、幸せなきもちになっていた。

生きていてくれてありがとうって拝みたくなったり、ただ、三好くんが楽しそうにいてくれたらいいよって、思うだけでよかったのに。


いまは、わたしがその瞳に映らなきゃ気が済まない。

わたしに笑いかけてほしいし、わたしとお喋りしてほしいし、わたしのおかげで楽しくなってほしい。



貪欲になって、困る。


このままだと、三好くんの怪我が治っても離れられなくなっちゃいそうで、すごく困る。