三好くんと、キス。
そんな夢のような出来事の翌日は、すっきりふわふわ最高に心地よい朝を迎えられると思っていた。
だけど、実際は、そうでもない。
しとしと弱い雨も降ってるし、空気は青と灰色が混ざったみたいな憂鬱な色だし、寝不足のせいで全身がだるい。
もとから、どんなことでもママに話すタイプの娘ではなかったけど、隠し事や秘密を持ったことはなかった。聞かれなかったから話さないのと、聞かれたけど話さなかったのは、ぜんぜんちがう。
だから、朝になってもママの顔がまっすぐ見られなくて、逃げるように学校に向かった。
ほんとうは、雨なので花壇に行く必要もないのだけど、朝早くから三好くんのところに行くこともできないし。
学校、あるいは家に向かう両脚は、ぼけっとしていても勝手に動いてくれるのでとても助かる。
雨が降ると、匂いが濃くなる。
夏に蒸されたコンクリート、重たいほどに水滴を乗せた街路樹、雨粒を受けるビニール傘。
むせかえるように鮮やかな光景も、いまのわたしの目にはほとんど映らない。
やさしいキスに浮かれていられたのは、その最中と、ふたりで目を合わせたあの数秒間だけ。
キスの意味をいくつも考えて、良いこと、悪いこと、ひとつひとつの可能性を潰していく。



