映画を観た後は、ほとんど無意識の領域でいつのまにか帰宅していた。帰り道、イヤホンから流れていた曲さえも思い出せない。
そうしたら案の定、最寄駅から乗り過ごしてしまって、いつもより遅い時間の帰宅になってしまった。
夜ごはんの時間までにおうちに帰りさえすれば、とくに何か言ってくることはないママだけど、今日はさすがにしつこく訊ねてきた。
夜ごはんの唐揚げにほとんど手をつけないわたしを見て、「都はいつもおかしいけど、きょうはとくにおかしいよ」ってママが言う。
体調の心配をされたから、それはぜんぜん大丈夫だよって返したら、「じゃあ、何かあった?」と必要以上に心配してくる。
ああ、もう、なんて答えればいいの?
何かあった?そんなの、あるに決まってるじゃん!
あのね、わたし、じつは超かっこいい男の子の腕を怪我させちゃって、あ、なんで怪我させたかっていうと、わたしがストーカーだからなんだけどね?
それで、その男の子の腕が治るまでは専属メイドさんをやってるの。そうそう、しかも、そのご主人様と、ついさっき、キスしちゃったんだよね!あはは!
って、言えばいいわけ???
そんなの言えるわけないでしょうが!
頭のなかがぐるぐるして、ママに秘密もつくってしまって、じょうずに言えなくて。
ぜんぶがうまくいかないまま、潜り込んだ清潔なベッドで、ただ、キスの余韻に浸っていた。