あしたからの夏休みを目前にして、わたしはそれなりに浮かれていた。

たしかに、それは否めませんが。



「三好くん、すきです。付き合ってください」



とはいえ、いくら浮かれているからって、こんなストレートに愛の告白をできるほどじゃない。


つまり、これはわたしの告白現場ではなくて。




人通りの少ない、東階段の踊り場。

偶然みつけた三好くんが、そちらに歩いていくのが見えたから。

なんていうか、ほら、出来心で、つい、あとをつけてしまって。


まさか、こんな大事な場面に出くわすなんて考えていなかった。

三好くんってば、わざわざ東階段なんて使ってどこに行くのかな~?という軽いストーカー根性で来てしまったわけだ。


「ありがとう、でも、」

「おねがい!高校2年生の大事な夏休みを、三好くんと楽しみたいの!!」



語尾強め聞き覚えのある声の主は、たしか、うちの学年でいちばんとされている美少女だ。

彼女なら、うちの学校でいちばんかっこいい三好くんともぎりぎり並べる。かもしれない。


まあ、三好くんは最強王子なので、そう簡単に見合う女の子なんて見つかりませんけどね。



とりあえず手を合わせて拝む姿勢だけは崩さずに、わたしは死角になるところに隠れて、聞き耳を立てていた。



わたしがその座を奪いたいなんておこがましいことは思わないけど、いきなり推しが誰かの特別になる心構えはできていない。


すくなくとも、その現場をこの目で見ることになるというのは、さすがにしんどいものがある。



でも、これ、いまは三好くんにお付き合いしてる子がいないってことだよね。

うむ、推しはみんなのものであってくれ、という勝手なきもち。