「映画、再生させますよ」
わたしたちの茶番みたいなやり取りに呆れているらしく、ソファから少し離れたところにいる峰くんが遮るように告げた。
それを合図に、なんとなく、わたしたちは、ごくりと唾を飲んで大画面に顔を向ける。
プロローグらしき、海外の日常風景が始まった。
退屈なそれを眺めながら、すぐ隣の三好くんが、つぶやくような声のボリュームでわたしを呼ぶ。
「ねえ、みゃーこ」
「なんですか」
「どうして俺には敬語なの」
「ご主人様だからです」
きっと、峰くんには敬語を解(ほど)いてること、気にしているのだろう。
峰くんは使用人仲間、兼クラスメイト。
三好くんはご主人様、兼サイキョーの推し。
三好くんだけに敬語を使っちゃうのは、当然のことである。
「ねえ、みゃーこ」
「なんですか」
「俺の怪我が治って、ご主人様じゃなくなったら、どうなるの」
「まあ、えーっと、ただの〝推す側と推される側の関係〟に戻りますね」
これから確実に起きる悪夢が身を潜めて、穏やかな日常を演出している。そんな映画の冒頭が、ゆるゆると流れていく。
意識の半分を映画に預けて、残りの半分で密やかな会話をしていた。少し距離がある峰くんには、きっと聞こえていない。



