こんな三好くん、知らない。

尊くて拝みたくなる三好くんとも、年相応で拗ねてばかりの三好くんともちがう。


夏の強い光を浴びたら、しゅわしゅわと消えてしまいそうな儚さをもっていた。



「俺の命令を聞けないようなら、オマエはメイド失格ね」

「き、聞きます、なんだって聞きますってば」



わたしのよく知る三好くんが僅かに取り戻されたので、それにしがみつくように、慌てて言葉を返す。


だけど、それはほんの一瞬だった。


きょうの三好くんは、なんだかおかしい。いや、昨日あたりから?

あるいは、少しずつ少しずつ、おかしくなっていたのかもしれない。



「じゃあ、もう、峰と仲良くしないで」

「え?」

「ていうか、俺以外に懐かないで。俺がご主人様だよ、俺以外に尻尾振るなんて、みゃーこ失格だよ」



おかしくなってるんじゃない。
たぶん、きっと、わたしよりも先に、大人になってしまったのだ。


いつも通り偉そうに命令すればいいのものを、懇願するかのように声が震えている。

遠回りな言葉では伝えたいことが分からなくて、わたしは何も返せなかった。


色素の淡い瞳に、わたしが映っている。

こんなにも近い距離に、三好くんがいる。以前と違って、ほんとうの意味での近い距離でわたしたちは向かい合っている。


それなのに、やっぱり三好くんは届かない。わたしを置いて、先へと進んでしまうらしい。



「腕の怪我、治っちゃうよ」



2週間ほど経って、だいぶ控えめになった包帯が巻かれた左腕。そこに静かな視線を落として、三好くんが言う。



「これが治ったら、みゃーこは俺から解放されて、また遠くに隠れちゃうでしょ」



べつに隠れていたつもりはないけれど、三好くんのように、みんなの中心に、注目の先にいるようなタイプでないのは確かだ。


まるで、わたしとの関係がおわることを惜しむように、言葉を選ぶものだから。


もしかしたら、強すぎる願望によって、彼の言葉の真意を捻じ曲げちゃってるのかもしれないけど。これを自惚れと呼ぶのか。



「腕、もうすぐ治りそうですか?」

「んー」

「え、もしかして、」

「ひみつだよ」



その、きれいな瞳のなかに。
わたしのこと、閉じ込めちゃえば?

大切そうに、まばたきを3つ。
それだけで、わたしなんて、永遠にあなたの虜だよ。