ちょっと汗もかいたし、ほんとは着替えたかったけど、三好くんの命令なので仕方ない。わたしは、とことこと彼のそばに歩み寄った。
「三好くん、まだ怒ってますか」
うつむいて、たずねる。思ったよりも声が小さくて、届いたかどうか不安になったけど、「ばか」といつも通り語彙力のない罵倒な返ってきたから安心した。
「みゃーこ」
「はい」
「俺ね、痛くて痛くてたまらないの」
ふつうに考えたら、間違いなく、腕の怪我のこと。
だけど、それだけじゃないような、もっと深みのあるような言葉選びだったので、わたしは黙ったまま立っていた。
「ぜんぶ、オマエのせいだよ。責任とってくれるんじゃないの?」
腕の骨折の責任なら、とりたいと思っている。そのための無賃労働なメイドさんだし、どんな命令だってきくつもりだ。
だけど、いつもより、どことなく、三好くんが大人びて見えたから。
学校での、余裕のある王子様然とした落ち着きじゃなくて、わたしよりも先に、知らない階段をのぼったような。
大人にしか分からないものを、知ってしまったような表情だ。
ゆるりと伏せた長い睫毛が、夏の日差しに透けている。柔らかな影ができて、純粋に、きれいだなと感じた。
形の良いくちびるが、きゅ、と結ばれて赤みが強くなる。



