土砂降りのことを「お空が泣いてるみたいだ〜」とか言うほど、わたしはお子様じゃない。雨は、ただの雨だ。雲から降ってくる。


でも、なんだか、お空の色と、こころの色は共鳴するような気がしている。

お空が灰色だと、目に見えるものすべてが灰色っぽくなって、こころも灰色になる。


三好くん、怒ってたかな?


それがちょっとだけ、気掛かりだ。そんなに、わたしのこと送りたかったの?でも、そうだとしたら、お見送りしてくれてもよかったじゃん。


峰くんのこと、わたしがお借りしちゃったから、嫌だったのかな。ひとりぼっちの気分にさせちゃったのかもしれない。



「稀さまのこと、あんまり気にしなくていいよ」



後部座席、おとなりに乗っている峰くんが、わたしの灰色を思いやって言葉をかけてくれた。


わたしに話しかけるときは、学校での峰くんそのものだ。格好は、ぴしっと執事さんだけど。


言葉に表せない、深いところでの信頼関係が見える峰くんが言うのだから、きっと、その通りなのだろう。


わたしは頷いて、車内での退屈しのぎに話しかけた。



「峰くんは、三好くんの執事歴長いの?」

「執事ってほどちゃんと働いてるか分からないけど、いちおう、幼馴染なんだよね」

「えー!そうなんだ、三好くんの幼い頃とか、ぜったいかわいいんだろうなあ」

「かわいいよ、かわいげなくて」


彼が、くすっと溢すように笑ってみせた。わたしは、もっと、幼少期の三好くん情報が聞きたくて続きを促す。


「ほら、稀さまって、なんでもできるし、大人の前では聞き分けがいいし、外面も完ぺきじゃん?泣かないし、駄々こねたりしない子どもだったんだよね」

「それが、かわいげないってこと?」

「そう、テストで100点をとっても、運動会の駆けっこで優勝しても、嫌な言葉をかけられても、いつも通りなんだもん」



わたしが、三好邸で見ている三好くんというひとは、駄々をこねるか、怒るか、拗ねるか。分かりやすく表情を変えている。


たしかに、学校でわたしがこっそりと陰ながら推してきた三好くんとはまたちがうけど、どちらも、三好くんだし、三好くんであるというだけで尊いので問題ない。



「だとしたら、わたしの知ってる三好くんは、かわいげが、ありまくるね?」



さすが、高級車。激しいはずの雨音がほとんど聞こえなくて、わたしの声が必要以上に車内いっぱいに響いてしまった。


峰くんは、根っこからの人気者だと思う。いつでもどこでも友だちをすぐに作れるタイプ。


この数日でわたしもすっかり、人たらしな彼に魅了されてしまった。それを象徴するように、後部座席のふたりは、くだらない話をする。